[コロナ] #5 久しぶりの外出。

[コロナ] #5 久しぶりの外出。

 2020年3月28日、土曜日。2週間ぶりに外出をした。以前の運転手さんに車を出してくれないか聞いてみたが丁重に断られ、タクシーで行くことにした。以前であれば、アパートの敷地内にブルーバード・タクシー1〜2台がスタンバイしていたが、スタンバイはなくなり、敷地内へのタクシーの立ち入りも禁止になってしまった。

 ブルーバードのアプリでタクシーを呼び、ゲートの外から乗った。車内には消毒液が置いてあり、まず手を消毒するよう言われた。私の方でも、すぐに窓を開けて換気。「ブルーバードの運転手200人ぐらいが、もう、田舎へ帰った。田舎なら食べていけるから。私も家にいたいけど、外へ出ないと稼げない。サラリーがあるわけじゃないし」という話。

 午後2時すぎに、中央ジャカルタの住宅街にある書道の先生の家に着いた。道は空いていた。

 先生には先にメールを送り、「コロナ騒ぎのただ中ではありますが、書道の授業をしていただくことは可能でしょうか? もし可能でしたら、今週土曜のご都合はいかがでしょうか? もし、『授業はしばらくやめている』ということでしたら、ご遠慮なくお知らせください」と書いた。先生からは「書道教室は、池田さんの方に依存がなければ、やりますよ。今週土曜日の、午後2時からでよければ、お越しください。お待ちしています」との返信が来た。

 先生と一対一の個人レッスンだし、感染リスクは少ないだろう、と考えた。「不要不急ではないけど、はるす(harus=インドネシア語で「〜しなければならない」という意味)です」という友人の宮島伸彦さんの言葉には笑ったのだが、まさにその心境。不要不急ではないけど「はるす」です。

 先生はマスク姿。大きい消毒液のボトルも机の上に置いてあった。まず、洗面所へ直行して、石けんで手洗いをする。そして、お互いマスクを着けたまま、書道を教えていただき、終わってから、来週の約束をした。普通なら、約束は約束、書道をするなら書道をする、だ。しかし、来週の約束をしながら「いつまでできるか、わからないなぁ……」という、初めての、不確定な気持ちになった。

 コロナ禍の中で、私にとって、書道の重要度はさらに増していた。これだけはどうしても続けたかった。週一回のレッスンだと外出頻度が高すぎる気がしたので、隔週に変えた。こうして書道レッスンのために、二週間に一度、外出していた。しかし、先生が日本へ長期帰国されることになり、書道での外出も休止することになる。

 この日、書道レッスンが終わってから道へ出たが、タクシーがまったく走っていない。再びアプリを使ってタクシーを呼んだ。シティーウォークへ向かう。そこで、会社の同僚のSさんと会う約束をしていた。

 シティーウォークは「インペリアル・キッチン」などが閉まっていたが、まだ半分以上の店が開いていた。日本人も結構いた。われわれと同じ「居残り組」だ。

 「J.Co」の換気の良いテラス席で、カフェラテとドーナツ。Sさんと久しぶりに再会し、めちゃくちゃうれしかった。いろいろな話をして、仕事のモヤモヤも晴れていった。

 「これからは、会社に来られなくてもテレカンしよう!」
 「うちへ来て、仕事とかは?」
 「それもいいですね!」

 「パパイヤ」で買い物をしたが、特に欲しい物はなく、コーヒー、はちみつ、冷や麦、枝豆天だけを買った。シティーウォークの前にはタクシーがいたので、そのまま乗って帰った。

 この外出は、ものすごく気分転換になり、「外に出るって大事なんだな」「人に会うって元気が出るもんなんだな」と感じた。不安に苛まれていたが、持ち直した。

「春雨にぬれつつ屋根のてまり哉」(2020年3月28日)
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夕焼け(2020年3月31日)
夕焼け。インドネシアに来て21年目の日(2020年3月31日)