[書道] #4 三月、友を送る(李白の詩)

[書道] #4 三月、友を送る(李白の詩)
故人西辞黄鶴楼
煙花三月下揚州
孤帆遠影碧空尽
惟見長江天際流
故人、西(の方)黄鶴楼を辞し
煙花三月、揚州に下る
孤帆の遠影、碧空に尽く
惟(ただ)見る、長江の天際に流るるを

李白詩 黄鶴楼に孟浩然の廣陵に行くを送る

「神棚」のような場所に飾っている李白の詩、目黒先生の色紙
「神棚」のような場所に飾っている李白の詩、目黒先生の色紙

 2月のある日、目黒雅堂先生に、李白の詩を書いた色紙をいただいた。「友を送る句。墨絵のような美しさと余韻がある」と、先生。この詩、この字が、本当に好きだ。

親しい友が、黄鶴楼を辞し、西の方へと去る。

花霞(がすみ)の三月に、揚州へと下る。

船の帆が遠ざかっていき、碧空に消える。

今はただ、長江が天際に流れているのを見るのみだ。

 7文字x4行、たったの28字で、友と離別する言葉にならない感情と情景が詠み込まれている。胸が締め付けられるような詩だ。詩の美しさと字の美しさで、いつまで見ていても飽くことがない。

 無性に自分でも書いてみたくなり、色紙を手本に、半紙に向かってみた。しかし、「あ、まだ無謀だった」と悟った。とても、これを書けるレベルではない。

 それでも、「いつか書いてみたい」という思いがあった。ちょうど1年ほど経って、「次の課題、もう一つ何にしよう?」と先生が迷われていた時、初めて自分から「あのー、書いてみたいものがあるんですけど……」と言った。「おっ!」という感じで「何?」と聞かれ、「李白の詩です、黄鶴楼の」「ああ、あれね」。「難しすぎるでしょうか?」「いや、大丈夫、大丈夫」。

 先生も、さすがに行書はまだ無理だと思ったのか、楷書で、マス目ありの半紙にきっちりと手本を書いてくださった。

 あこがれのその詩を実際に書いてみると、字数が多すぎて、書き切るには相当な集中力が要る。やっぱり、まだ無謀だったか、と思いながら、何枚も書いている。そして、私にはまだ無理だが、楷書よりもやはり、流れるような行書が好きだ。

楷書の手本(左)と練習中の一枚
楷書の手本(左)と練習中の一枚。まだまだだ

 色紙をいただいた2022年2月は、賀集由美子さんの「トリビュート展」を3月にジャカルタで開催しようとして準備中だった。私にとってこの詩は、賀集さんを送る詩。

 私は岸辺に立ち、遠くなり消えていく船を見ている。

 船が見えなくなっても、いつまでも見ている。

 天際に川がとうとうと流れている。