[コロナ] #4 不安の日常、感染の予防。

[コロナ] #4 不安の日常、感染の予防。

 草刈り機のような大きな音がするので、窓から外を見てみると、下に広がる街並みのあちこちで、白い煙がもくもく立ち上っている。殺虫剤の噴霧にも似た「消毒」中だ。下のカンプンのどこかの家で、コロナ感染者が出たのか。消毒機材を持った人が、一軒一軒回って消毒しているようだ。改めて、えらいことになった、と思う。

立ち上る消毒の煙(2020年3月26日)
街から立ち上る消毒の煙(2020年3月26日)
立ち上る消毒の煙(2020年3月26日)

 コロナへの不安で、仕事が手に付かなくなる。日常がなくなっていく恐ろしい感覚。料理教室、ツアー、ランチの約束……つい2週間前までは普通にやっていたことや、やろうと思ったらできたことが、できなくなる。しかし、ありがたいことに、100%在宅ワーク、さらに、買い物はお手伝いのミニさんが行ってくれるので、ほぼ閉じこもって過ごせる。

 幸いだったのは、たまたま、分不相応なぐらいに良いアパートを契約中で、部屋に十分な広さがあり、快適で、セキュリティーの心配もほぼなかったこと。広い窓からはジャカルタの街が見渡せ、下の階の庭にはヤシの木の葉がそよぐ。この眺めには随分、慰められた。狭くて快適でないアパートであれば、かなり辛かったと思う。

 さらに幸運なことに、アパート1階にあったレストランが改装され、スーパーとなってオープンしたばかりだった。食料品も日用品もそこで買える。下へ降りればスーパーがある、というのはとても心強かった。そして、フレディ(ねこ)が一緒にいたこと。引きこもるには、これ以上ないぐらいの絶好の環境だった。

 「見えないウイルスの感染」に備え、不安の軽減にものすごく役立ったのは、NHKの記事「新型コロナウイルスから身を守る方法〜外はペンキ塗りたての世界」だった。内科医の眞鍋葉子さんが提案し、ウイルスをペンキに例えたわかりやすい動画が制作されている。家から一歩外へ出たら、そこは「ペンキ塗りたての世界」と考えよう。「ペンキ」が手や服に付いたからと言って、パニックになる必要はない。この「ペンキ」は、洗えば落ちる。大事なのは、「ペンキ」の付いた手で鼻や口を触らないこと。家の中に「ペンキ」を持ち込まないこと。

 この考え方は、非常に役に立った。帰宅したらまず、マスクをゴミ箱に捨てる。それから、どこも触らずに洗面所に直行し、花王の「あわあわ手洗いの歌」を頭の中で歌いながら、20秒間、石けんで手洗い。続いて、着ていた物を全部脱いでかごに入れ、即、シャワー。髪と体を石けんとシャンプーで洗う。着替えが済んだら、眼鏡を石けんで洗う。最後に、消毒液を吹き付けたマイクロファイバー・タオルで、スマホを丁寧に拭く。これを徹底して行い、生活習慣になった。今でも、少し緩めてはいるものの、基本動作は同じだ。

 皆が、「いかに、外で物を触らないようにするか」に腐心し、使い捨てビニール手袋を着けたまま買い物をしている人もいた。しかし、ビニール手袋をすると、しょっちゅう手洗いがしにくくなる。その手袋のままで何かを触って汚染させてしまうかもしれない。素手で過ごし、「何かを触ったら、即、手洗い」というやり方の方がいいのではないか、という結論に達した。お金なども触ったら、すぐ、石けんで手洗いする。手洗いがしにくいので、腕時計や指輪はしなくなった。せっかく電池を替え、切れたベルトを付け替えたばかりだったアイスウオッチも、しばらく出番がなかった。

 ジャカルタでは、いろいろな場所の入口で、ハンドソープ付きの手洗い所が設置された。オフィスビル、ショッピングモール、アパート。私のアパートでも、ある日、クローゼットに似た形の手洗い所が設置されて、「入る前に手洗いを」と、でかでか書かれたバナーがレセプションに貼られた。意外に簡単に、水道の引かれた手洗い所が出現するのにはびっくりだった。

 面白いのは、エレベーターの中に設置された、爪楊枝とプラスチック・コップ。発泡スチロールに爪楊枝がいっぱい刺してあり、そのうちの1本を取り、行き先のボタンを押す。使った爪楊枝は、他の人が触らないよう、コップの中に捨てる。エレベーターの行き先を足踏みペダル式にした所もあったが、これなら、身近にある物を使って簡単に作れる。爪楊枝がなくなると補充され、発泡スチロールはボロボロになると交換された。この創意工夫には感心した。

エレベーターに設置された爪楊枝(2020年4月2日)
エレベーターに設置された爪楊枝(2020年4月2日)