ジャカルタ書道日記

[書道] #17 新しい筆

  • 2024.04.10

 2024年3月、日本に一時帰国して、新しい筆を入手した。奈良で買った筆2本、友人がくれた豊橋筆2本。  「弘法は筆を選ばず」だが、私は筆を選ぶのだ。最初に目黒雅堂先生から買わせていただいた中国の筆(太筆15万ルピア、小筆12万ルピア)に始まり、日本の姉に文具店で適当に選んでEMSで送ってもらったり、日本から来る友達に頼んだりと、試行錯誤している。  中筆は、姉の送ってくれた「女神」という名前の物 […]

[書道] #16 奥の細道

  • 2023.10.15

 今年のレバラン休みは特に何もやることがなかった。この機会にやってみるか、と、ふと思ったのが「えんぴつで奥の細道」(大迫閑歩書、ポプラ社、2006年)。  「ひと文字、ひと文字、少しずつ、芭蕉のことばを書き写してみませんか。出会いと別れ、そして名句の数々。文字を丁寧になぞることであなた自身の旅が始まります」とは、表紙に書かれた魅力的な言葉。  各章(第〇日目、場所、という分け方)に、手本として書か […]

[書道] #15 プトリの書道

  • 2023.10.02

 書道に関心を示すインドネシア人は結構いる。私の「#ねこと書道」のツイートを見たインドネシア人の親友のプトリが「筆で字を書いてみたい」と言ってきた。ツイートした甲骨文字の写真を「Asyik!」(クール!)と言っている。うちへ来て、初めての書道に挑戦することになった。  プトリは、書道の筆を持つのは初めてだ。何を書くか、手本を何にするか? どうせだったら漢字がいいだろう。そこで、私の初回の課題「温故 […]

[書道] #14 絵のような字、篆書と象形文字

  • 2023.09.24

 「行って戻る」筆の使い方は隷書(れいしょ)と同じだが、篆書(てんしょ)は楽しい。  「古代文字である甲骨文字、象形文字が、中国の文字の黎明期に、初めて文字としての体裁が整えられた。象形文字に最も近いのが篆書」  「隷書が平たく安定感があるのに対し、篆書は縦長。華やかで趣がある。動きがあって、面白い字」   「気品、柔らかさ、優しさがある。印鑑にするのに、情緒があって良い」 (目黒先生)  何かを […]

[書道] #13 壺井繁治の「石」

「石」 石は 億萬年を 黙って 暮しつづけた その間に 空は晴れたり 曇ったりした (壺井繁治)  小豆島へ遊びに行った時、「二十四の瞳映画村」内の「壺井栄文学館」を訪れた。興味深く見学して、「二十四の瞳」のポストカードや、壺井栄が好きだったという「桃栗三年柿八年柚の大馬鹿十八年」をモチーフにした便箋を買った。「石」は、その壺井栄の夫で詩人の壺井繁治(つぼい・しげじ)の作。小豆島には「石」の碑もあ […]

[書道] #12 ある日のレッスン

  • 2023.09.03

 目黒先生のレッスンとは、どんな感じなのか、と言うと。最新のレッスンの様子を書いてみる。  2023年8月26日、土曜日。この日も、午前中はずっと「最後のあがき」の清書をし、ちょっとお昼休憩をしてから出発。午後2時前に、先生宅に到着した。久しぶりにお会いした先生、「何年ぶり?」とボケる。半年ぶりです。  家で書いた清書をまとめて提出する。まずは楷書だ。書家・田英章の本から手本を取ったもの。  先生 […]

[書道] #11 散歩

  • 2023.08.27

 ギリギリの所で破門を許されて、私の書道生活は第二フェーズに突入した。課題は必ず全部やり、「ねこと書道」にも慣れてきた。書道が楽しくて仕方がない。  家で課題をする順番は、まずは「かな」から。「かな」は時間がかかり、清書までなかなか行き着かないので、一番最初にやる。次は隷書。隷書は迷路だ。私のレベルでは、いくら練習しても結果はあまり変わらないと思えるので、ある程度やったら、すぐ清書して終わりにする […]

[書道] #10 破門

  • 2023.08.27

 書道を始めてすぐ、その楽しさにすっかり夢中になる。ひたすら練習していると、書けないなりにも「あっ、これ、まぁまぁじゃない?」という瞬間がある。字の形がだんだん意識されてくる。字を書くことがだんだん苦にならなくなり、いそいそと練習する。  一字ずつ練習してから清書にかかるのだが、清書がまた難しい。例えば、かなの「りぬるをわかよた」という課題。「『り』はうまくいったけど、『ぬ』の丸める所を失敗した。 […]

[書道] #9 夏の歌

  • 2023.08.20

「夏の雨きらりきらりと降りはじむ」(日野草城)  夏の明るさに満ちた、美しい歌だ。しかし、この手本、普通は読めないだろう。目黒先生は手本を書いた後、読めない字を一字ずつ別紙に書いて解説してくれる。「夏」「雨」「降」、えーっ、こうなるの?? あまり納得はできないのだが、納得するかどうかではなくて覚えないといけない。  「降りはじむ」の「は」は、「者」を当てる。「剣者心也」(剣は心なり)というように、 […]

[書道] #8 隷書は「フォント」だ!

  • 2023.08.20

 かなと楷書に少し慣れたころ、「簡単な隷書(れいしょ)をやってみましょう」と目黒先生に言われた。「ええーっ、また新しい書体をやるの?」と再び内心ひるみつつ、初めての隷書を教わった。書き方がこれまでとまったく違い、「はぁ……書の道のりは遠い……」と呆然とした。  筆を「行って戻す」と行き来させる、ナゾの筆遣い。例えば「一」と書きたかったら、左から右へ真っ直ぐ引くのではなく、まずは逆側の右から左へ(上 […]

[書道] #7 道具は「そこそこ」良い物を

 「書道をやりたくなったなぁ。始めてみようかなぁ」という方に是非ともお伝えしたいのは、「道具は(そこそこ)良い物を!」ということだ。私自身も「どうせ下手だから」安い物で十分だ、と思っていた。しかし実は「下手だからこそ」、そこそこの道具が要るのだ。それを最初にわかっていれば、もっと練習の効果が上がっていたかもしれない。その反省に立ち、「ものすごく良い物」でなくていいから、最初から「そこそこ良い物を」 […]

[書道] #6 フレディの書道

 「ねこと書道」の回でも書いたが、ねこ(名前はフレディ)はいくら机から下ろしてもまた上る。もうそのまま放置。だんだん慣れてきて、ねこと戦いながら、気軽に書道の練習をできるようになった。  大抵は紙の上に座ったり寝ているだけなので、邪魔ながらも、なんとか書ける。その時、墨の小皿や筆はフレディから離しておく。しかし、こうやって注意していても、たまに、墨皿に手(足)を突っ込んでしまうという惨事が発生する […]

[書道] #5 ねこと書道の始まり

 書道を始めて2カ月、「書道楽しい」絶頂期に来たのが、フレディ(ねこ)だ。夢中になって燃え盛っていた火に、ざばんと水を浴びせられた。  書いていると必ず邪魔をする。下敷きの上に紙を置くと、ズバン!と手で押さえる。文鎮の向こうから虚ろな目でこちらを見ていたかと思ったら、文鎮にもたれて(文鎮を押しながら)寝てしまう。清書や手本をいっぱいに広げた上や、紙の間に「落ちて」いる。  これはまだおとなしい方で […]

[書道] #4 三月、友を送る(李白の詩)

故人西辞黄鶴楼煙花三月下揚州孤帆遠影碧空尽惟見長江天際流 故人、西(の方)黄鶴楼を辞し煙花三月、揚州に下る孤帆の遠影、碧空に尽く惟(ただ)見る、長江の天際に流るるを 李白詩 黄鶴楼に孟浩然の廣陵に行くを送る  2月のある日、目黒雅堂先生に、李白の詩を書いた色紙をいただいた。「友を送る句。墨絵のような美しさと余韻がある」と、先生。この詩、この字が、本当に好きだ。 親しい友が、黄鶴楼を辞し、西の方へと […]

[書道] #3 「凍れる音楽」、王羲之

  • 2023.07.25

 5回目のレッスンに課題を提出すると、目黒雅堂先生に「これは満点」と何回も言われた。「ほめ殺しの目黒」なのだ。  「次から『蘭亭序』(らんていじょ)をやってみましょう」 「えっ!」  口には出さなかったものの、「まだ早いのでは? 普通に、これまで通り『四字熟語』とか『五字熟語』とかでいいんだけど……」というのが本音だった。  書をやり始めて、その名を聞くようになった王羲之(おう・ぎし)。4世紀半ば […]

[書道] #2 自転車が走り出す

  • 2023.07.15

 紙に筆を滑らす時、手に伝わってくる微妙な紙の抵抗感と摩擦。それが非常に気持ちが良い。ノートにボールペンで書く時とはまったく違う、もっと深い抵抗感と摩擦だ。  いったん書いた字は「あっ!(失敗した)」と思っても、消すことも直すこともできない。「Delete」キーはないのだ。コンピュータやスマホで文字を書くことに慣れた今、消すことができない文字を書くというのは、ものすごく新鮮な体験だ。  「い」「ろ […]

[書道] #1 最初のレッスン

  • 2023.07.15

 取材でノートを取っている時、インタビュー相手から何度、「速記できるんですね、すごいですね」と言われたことか……。速記ではなく、字が汚いだけです。時々、自分でも読めません、ハイ。友人の宮島伸彦さんには「日本語の筆記体ですね」と言われた。  子供の時は、活字のように几帳面な字を書いていたのだが、いつのころからか、どんどん崩れていった。さらに、文字を書くのにキーボードで入力することが多くなり、非常に簡 […]

ジャカルタ書道日記

  • 2023.07.15

「字を書く」仕事をずっとしてきた。仕事にぽっかり空白が出来、「『字を書く』原点に戻りたい」と思ったのが書道を始めた理由の一つ。楽しくて夢中になり始めたころ、ねこが来て、コロナ禍。それでもなんとか(細々と)続けています。