壺井繁治の「石」 [書道] #13
「石」 石は 億萬年を 黙って 暮しつづけた その間に 空は晴れたり 曇ったりした (壺井繁治)
小豆島へ遊びに行った時、「二十四の瞳映画村」内の「壺井栄文学館」を訪れた。興味深く見学して、「二十四の瞳」のポストカードや、壺井栄が好きだったという「桃栗三年柿八年柚の大馬鹿十八年」をモチーフにした便箋を買った。「石」は、その壺井栄の夫で詩人の壺井繁治(つぼい・しげじ)の作。小豆島には「石」の碑もあるのだが、当時は残念ながらそのことを知らず、訪れなかった。
今回の課題は、この「石」で、金子卓義(かねこ・たかよし)という、「『かな交じり書』というジャンルを打ち立てた書家」(目黒先生)の作品を臨書する。
先生に言われたのは、「上手に書こうとは、いっさい思わない。四角く、遊んで書き、『石』の荒々しさを出す。字というより、絵画を描くように」「かすれも味わい。かすれを作り、かすれを活かす」。
そして、目の前で、手本を書いてみせてくれた。太筆を取り、まずは大きく「石」。この一字を勢い良く書いてから、もう一度、筆に朱液をたっぷり含ませ、紙の上から「ぱっ、ぱっ」と振って、朱液を字の上に飛び散らせる。えーーーっ!! これは、難しい……。
家に帰ってやってみると、やはり、「ぱっ、ぱっ」が、うまい具合にいかない。ちょうどいい案配の飛び散り具合ではなく、「どぼっ」と落ちてしまう。字の見え方を阻害してしまうぐらいの、落ち具合。紙を替え、墨を含ませる量を変えながら、何回もやり直す。
さらに、太筆にたっぷり墨をつけて「石」と書くと、滲む、滲む(当時はまだ、紙・墨汁ともに安物を使っていたこともあり)。書きたてで墨べっとべとの上をフレディ(ねこ)が歩き、紙に足跡が付いてしまった……。フレディとの初めての「合作」となった、思い出深い作品。
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