[書道] #7 道具は「そこそこ」良い物を

[書道] #7 道具は「そこそこ」良い物を

 「書道をやりたくなったなぁ。始めてみようかなぁ」という方に是非ともお伝えしたいのは、「道具は(そこそこ)良い物を!」ということだ。私自身も「どうせ下手だから」安い物で十分だ、と思っていた。しかし実は「下手だからこそ」、そこそこの道具が要るのだ。それを最初にわかっていれば、もっと練習の効果が上がっていたかもしれない。その反省に立ち、「ものすごく良い物」でなくていいから、最初から「そこそこ良い物を」と、お薦めしたい。

半紙なら何でも……良くない

 なんと言ってもまずは紙だ、半紙なら何でもいいだろう、と、日本の「カインズ」で「練習用半紙」を大量に買って来た。値段は覚えていないが、安かった。「ジャカルタに帰っても、これで当分、安心だ」と思っていた。しかしこれは、半分以上残ったままで積まれている。なぜかと言うと、書く端から激しく滲むのだ。ビビリ線のようになって、自分の書いた線がまったく見えない。点を打っても、滲んで黒い塊になってしまう。先生に教えてもらった「45°右下に引っ張って出来る三角形」が作れているのか、いないのか。いくら「練習用」とはいっても、これでは練習にもならない。練習するだけ無駄、となってしまう。

 姉が日本からEMSで荷物を送ってくれた時に、半紙を入れてもらった。「適当に入れるから、どれが良かったか教えて」とのことだったが、どれも案外、滲むのだ(次に書く「墨汁」のせいだったかもしれない)。これまでで一番書きやすかったのは、日本の友達がお土産に持って来てくれた「菊水」。かなを書く時には、下写真の「かな用紙」、それと、目黒先生の所で買える「白蓮」(粗い手漉き紙といった、中国の非常に薄い紙)も書きやすい。先生は時々、この「白蓮」を「たっぷり練習して」と言って、タダで下さる。「良い紙はもったいないから清書用」としていると、能率は良くない、と学んだ。

紙いろいろ。かな用には手前の2つが使いやすい
紙いろいろ。かな用には手前の2つが使いやすい
友達の持って来てくれた半紙「菊水」(2019年7月28日)
高校時代の友達が日本からのお土産に持って来てくれた書道半紙の「菊水」

「墨汁は呉竹でないと」派

 墨汁は最初から、ダイソーの物を使っていた。古くなると分離するので、よく振ってから使う。しかし、古くなりすぎると、やはり書く端から滲む。それと、どうしても色が薄くて、水っぽい。

 ジャカルタで墨汁を探していた時に、グランド・インドネシアの「グラメディア」で呉竹の墨汁が売られているのを見た。20万ルピアだか、30万ルピアだったか。その時の私は「あまりにも高すぎる」と考え、買わなかった。最初に呉竹の墨汁を使ったのは、日本へ帰国する人がくれた使いさしの物だ。ほんの少し残っていた墨汁を試しに使ってみて、驚愕した。滲まず、黒々と書ける。「これはほとんど墨では?」という黒光りした色。書きやすいし、字もうまく見える。

 それからは現金にも「墨汁は呉竹でないと」派となり、日本へ帰った時に買って来る。日本で買えば、そんなにめちゃくちゃ高くはないのだ。もちろん、いろんなランクがある中で、最高級の物ではなく、「そこそこ」の物を買う。今の所はそれで十分。

呉竹の墨汁
呉竹の墨汁

やっぱり筆は大事だった

 最初の筆は、先生の所で、中国の太筆と小筆の2本を買った。しかし、その小筆が中筆ぐらいの太さで、細くて繊細な線の「かな」は書きにくい。うまい人は筆圧で線の太さを変えられるのだが、うまくない場合は、非常に難しい。

 姉がEMSで送ってくれた小筆を使ってみたところ、断然、書きやすい! 筆、紙、墨汁を変えたら、苦手だったかなが急に書きやすくなり、「最初からこうしておけば……」と、がっくり。

左端の中筆「女神」と右端の小筆を愛用
左端の中筆「女神」と右端の小筆(銘柄不明)を愛用。真ん中の太筆はめったに使わないが、大きい字の草書や行書を書く時には必要

ペン子ちゃんの筆置き

 かな、楷書、隷書など、毎回、いろいろな課題が出される。課題に合わせて筆を替えて練習するので、何本かいっぺんに置ける筆置きが便利だ。愛用しているのは、こまつか苗さん作「ペン子ちゃん筆置き」(上写真)。賀集由美子さんとのコラボ作品で、賀集さんのキャラクターの「ペン子ちゃん」が3Dになっており、めちゃくちゃかわいい。

ペン子ちゃんの筆置き
バティックのチャンティンや箸置きにも(賀集さん撮影)

 賀集さんは、こまつか苗さんとの「作品バーター」でペン子ちゃん筆置きを入手し、ほとんど販売せずに自分用に「ガメて」(賀集さん)いた。書道を習い始める直前の2018年11月、たまたま日本で賀集さんの展示会があった時に、この筆置きを買わせてもらった。バックヤードに内輪の何人かが集まり、キャーキャー言いながらじゃんけんをして、順番に好きな物を取った。このほかに、ジャカルタで買わせてもらった物もある。

 まだ書道をやっていなかったので、買ったものの、「箸置きかな、もったいないから使わずに、飾りかな?」という気持ちだった。それが、書道を始めてからは、欠かせない道具になった。実用的で使いやすいだけでなく、書道の場にペン子ちゃんがいる、というのは、なんとも気持ちを和ませてくれる。

ペン子ちゃんのいる書の風景
ペン子ちゃんのいる書の風景

私の文鎮コレクション

 昔から、文鎮を集めるのが趣味だ。仕事でゲラの紙やコピーした資料を押さえる、という「必要性」のほかに、なぜか文鎮が大好きで、つい買ってしまう。

文鎮コレクション
岩手、富山、ベルギーで買った文鎮コレクション

 私の文鎮自慢、まずは花巻で買ったクルミ形の物。「宮沢賢治が見付けたクルミの化石を復刻した南部鉄器の文鎮」と、ちょっとわけがわからない。しかし、宮沢賢治、クルミ(銀河鉄道の夜)、南部鉄器、と三拍子揃ったら、買わざるを得ないでしょう。形のかわいさも、ちょうど良い持ち重り感も最高。

 次は、富山・高岡鉄器の文鎮二つ。富士山形の文鎮は、上に筆一本を置けるのも便利だ。もう一つはクジラの形をしていて、ほれぼれする形の良さ。この二つはポピュラーなので、見たことのある方も多いのではないかと思う。高岡へ行った時に、二つの中から迷いに迷って「より実用的」という理由で「富士山」を選んだのだが、後日、「クジラ」の方もオンラインで買ってしまった。

 それから、ベルギー・ブリュッセルの「のみの市」(骨董市)で買った、200グラムと500グラムの分銅。大小あるのが、用途に合わせられてちょうど良く、しっかりした安定感で紙を押さえられる。さすが分銅。「実際に使われていた品」というのもいい。一緒に旅行していた母からは「そんな物買うの?(重いやん)」とあきれられた。実はこの時に、別の売り場でフクロウの文鎮も見付けたのだが、かなり値段が高く、迷った末に買うのをやめてしまった。今でもちょっと残念に思う。

 しかし、問題は、私の文鎮コレクションは書道用ではなく「ペーパーウェイト」であること。どれも小さく、半紙を押さえるには、やりにくい。広げた手本などがエアコンの風で飛ばないように、上に置いて押さえるぐらいだ。

 半紙を押さえるには、長くて重い文鎮が要る。先生の使っている、黒くてどっしりした、漢字の書いてあるシンプルな文鎮がうらやましくてしょうがない。気に入った文鎮がないかとメルカリで探してみたり、日本で書道店をのぞいたりもしたが、何の面白みもない、いかにも「書道の授業です」といった銀色の文鎮か、過剰な装飾の施された使いにくそうな物ばかり。普通の細長い、シンプルな、しかし、文鎮愛好家としては「『文房具です』ではない文鎮」が欲しいのだ。半ばあきらめつつも、いまだに探し中。

ねこ対策に夢の道具

 最後に、「夢の道具」を。フレディ(ねこ)が激しく邪魔するようになり、こまつか苗さんが「こうすればどうですか?」と描いてくれたイラストがあまりにもかわいかったので。まぁ、こううまくはいかないのが、ねこ。

フレディ入れ(こまつか苗さん絵、2019年7月26日)
賀集さんの作った「バティック製ギプス」にヒントを得た、「フレディ入れ」(こまつか苗さん絵、2019年7月26日)
こんな風に入ってくれたらなぁ
こんな風に入ってくれたらなぁ