道具は「そこそこ」良い物を [書道] #7
- 2023.08.13
- ジャカルタ書道日記
- CATS, YUMIKO KASHU
「書道をやりたくなったなぁ。始めてみようかなぁ」という方に是非ともお伝えしたいのは、「道具は(そこそこ)良い物を!」ということだ。私自身も「どうせ下手だから」安い物で十分だ、と思っていた。しかし実は「下手だからこそ」、そこそこの道具が要るのだ。それを最初にわかっていれば、もっと練習の効果が上がっていたかもしれない。その反省に立ち、「ものすごく良い物」でなくていいから、最初から「そこそこ良い物を」と、お薦めしたい。
半紙なら何でも……良くない
なんと言ってもまずは紙だ、半紙なら何でもいいだろう、と、日本の「カインズ」で「練習用半紙」を大量に買って来た。値段は覚えていないが、安かった。「ジャカルタに帰っても、これで当分、安心だ」と思っていた。しかしこれは、半分以上残ったままで積まれている。なぜかと言うと、書く端から激しく滲むのだ。ビビリ線のようになって、自分の書いた線がまったく見えない。点を打っても、滲んで黒い塊になってしまう。先生に教えてもらった「45°右下に引っ張って出来る三角形」が作れているのか、いないのか。いくら「練習用」とはいっても、これでは練習にもならない。練習するだけ無駄、となってしまう。
姉が日本からEMSで荷物を送ってくれた時に、半紙を入れてもらった。「適当に入れるから、どれが良かったか教えて」とのことだったが、どれも案外、滲むのだ(次に書く「墨汁」のせいだったかもしれない)。これまでで一番書きやすかったのは、日本の友達がお土産に持って来てくれた「菊水」。かなを書く時には、下写真の「かな用紙」、それと、目黒先生の所で買える「白蓮」(粗い手漉き紙といった、中国の非常に薄い紙)も書きやすい。先生は時々、この「白蓮」を「たっぷり練習して」と言って、タダで下さる。「良い紙はもったいないから清書用」としていると、能率は良くない、と学んだ。
「墨汁は呉竹でないと」派
墨汁は最初から、ダイソーの物を使っていた。古くなると分離するので、よく振ってから使う。しかし、古くなりすぎると、やはり書く端から滲む。それと、どうしても色が薄くて、水っぽい。
ジャカルタで墨汁を探していた時に、グランド・インドネシアの「グラメディア」で呉竹の墨汁が売られているのを見た。20万ルピアだか、30万ルピアだったか。その時の私は「あまりにも高すぎる」と考え、買わなかった。最初に呉竹の墨汁を使ったのは、日本へ帰国する人がくれた使いさしの物だ。ほんの少し残っていた墨汁を試しに使ってみて、驚愕した。滲まず、黒々と書ける。「これはほとんど墨では?」という黒光りした色。書きやすいし、字もうまく見える。
それからは現金にも「墨汁は呉竹でないと」派となり、日本へ帰った時に買って来る。日本で買えば、そんなにめちゃくちゃ高くはないのだ。もちろん、いろんなランクがある中で、最高級の物ではなく、「そこそこ」の物を買う。今の所はそれで十分。
やっぱり筆は大事だった
最初の筆は、先生の所で、中国の太筆と小筆の2本を買った。しかし、その小筆が中筆ぐらいの太さで、細くて繊細な線の「かな」は書きにくい。うまい人は筆圧で線の太さを変えられるのだが、うまくない場合は、非常に難しい。
姉がEMSで送ってくれた小筆を使ってみたところ、断然、書きやすい! 筆、紙、墨汁を変えたら、苦手だったかなが急に書きやすくなり、「最初からこうしておけば……」と、がっくり。
ペン子ちゃんの筆置き
かな、楷書、隷書など、毎回、いろいろな課題が出される。課題に合わせて筆を替えて練習するので、何本かいっぺんに置ける筆置きが便利だ。愛用しているのは、こまつか苗さん作「ペン子ちゃん筆置き」(上写真)。賀集由美子さんとのコラボ作品で、賀集さんのキャラクターの「ペン子ちゃん」が3Dになっており、めちゃくちゃかわいい。
賀集さんは、こまつか苗さんとの「作品バーター」でペン子ちゃん筆置きを入手し、ほとんど販売せずに自分用に「ガメて」(賀集さん)いた。書道を習い始める直前の2018年11月、たまたま日本で賀集さんの展示会があった時に、この筆置きを買わせてもらった。バックヤードに内輪の何人かが集まり、キャーキャー言いながらじゃんけんをして、順番に好きな物を取った。このほかに、ジャカルタで買わせてもらった物もある。
まだ書道をやっていなかったので、買ったものの、「箸置きかな、もったいないから使わずに、飾りかな?」という気持ちだった。それが、書道を始めてからは、欠かせない道具になった。実用的で使いやすいだけでなく、書道の場にペン子ちゃんがいる、というのは、なんとも気持ちを和ませてくれる。
私の文鎮コレクション
昔から、文鎮を集めるのが趣味だ。仕事でゲラの紙やコピーした資料を押さえる、という「必要性」のほかに、なぜか文鎮が大好きで、つい買ってしまう。
私の文鎮自慢、まずは花巻で買ったクルミ形の物。「宮沢賢治が見付けたクルミの化石を復刻した南部鉄器の文鎮」と、ちょっとわけがわからない。しかし、宮沢賢治、クルミ(銀河鉄道の夜)、南部鉄器、と三拍子揃ったら、買わざるを得ないでしょう。形のかわいさも、ちょうど良い持ち重り感も最高。
次は、富山・高岡鉄器の文鎮二つ。富士山形の文鎮は、上に筆一本を置けるのも便利だ。もう一つはクジラの形をしていて、ほれぼれする形の良さ。この二つはポピュラーなので、見たことのある方も多いのではないかと思う。高岡へ行った時に、二つの中から迷いに迷って「より実用的」という理由で「富士山」を選んだのだが、後日、「クジラ」の方もオンラインで買ってしまった。
それから、ベルギー・ブリュッセルの「のみの市」(骨董市)で買った、200グラムと500グラムの分銅。大小あるのが、用途に合わせられてちょうど良く、しっかりした安定感で紙を押さえられる。さすが分銅。「実際に使われていた品」というのもいい。一緒に旅行していた母からは「そんな物買うの?(重いやん)」とあきれられた。実はこの時に、別の売り場でフクロウの文鎮も見付けたのだが、かなり値段が高く、迷った末に買うのをやめてしまった。今でもちょっと残念に思う。
しかし、問題は、私の文鎮コレクションは書道用ではなく「ペーパーウェイト」であること。どれも小さく、半紙を押さえるには、やりにくい。広げた手本などがエアコンの風で飛ばないように、上に置いて押さえるぐらいだ。
半紙を押さえるには、長くて重い文鎮が要る。先生の使っている、黒くてどっしりした、漢字の書いてあるシンプルな文鎮がうらやましくてしょうがない。気に入った文鎮がないかとメルカリで探してみたり、日本で書道店をのぞいたりもしたが、何の面白みもない、いかにも「書道の授業です」といった銀色の文鎮か、過剰な装飾の施された使いにくそうな物ばかり。普通の細長い、シンプルな、しかし、文鎮愛好家としては「『文房具です』ではない文鎮」が欲しいのだ。半ばあきらめつつも、いまだに探し中。
ねこ対策に夢の道具
最後に、「夢の道具」を。フレディ(ねこ)が激しく邪魔するようになり、こまつか苗さんが「こうすればどうですか?」と描いてくれたイラストがあまりにもかわいかったので。まぁ、こううまくはいかないのが、ねこ。
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